終わらない場所

 

深夜食堂】というドラマを

初めてのみたのは

高校を卒業し上京した年だった。

新宿ゴールデン街の片隅で

小林薫演じる顔に傷が残ってる

マスターが営む【めしや】

そこのメニューは

お酒と豚汁定食のみ。

あとは作れるものは

作るよというスタンス

 

そこには多くの人が集う

それぞれに思い思いの料理を注文する

焼きたらこ、甘い卵焼き

卵サンド、

タコさんウインナー、お茶漬け

ラーメン、カレーライス、とろろめし……

 

それらを食べてるときだけは

子供みたいな顔でその料理とともにした

遠い昔の自分へ表情が戻っていく

あるいはつかの間の楽しみとして

混沌としたこの街で生きる人の

ささやかな時間となる

 

 

やくざ、ゲイバーのママ、

ストリッパー、漫画家、

OL、サラリーマン、

そんなの関係なくなるわけだ。

 

 

この作品はドラマを数シーズンを経て

長い月日を経て、映画化された。

 

 

今回はその映画について

浅く書きたいと思うが

ドラマを見ていたわりには

映画にはさほど興味なかった。

当時、このドラマをみていたのは

東京の高円寺の1人暮らしのワンルーム

そこでごはんとお酒をつまみ飲みながら

その【めしや】に集う人たちの

物語を静かに眺めていた。

1人暮らしは寂しいことが

多かったし、誰とも共有できない

そんな1人の夜もたくさんあった。

深夜食堂を見てたときは

その孤独がすこし和らいでいた気がする。

 

ドラマに対して思い入れと

当時の記憶が入り交じっていた

 

映画になったころはもう

地元に戻っていたし

あの頃と環境や悩みは変わっていた。

 

自然と映画をみるという

発想にいかなかった。

というより、あのまま

わたしだけの大事な思い出のように

ひっそりと箱にしまったままに

したかったのかもしれないな。

 

 

映画をみたのは

以外にも、母がBSで放送してたものを

録画していたのがきっかけで

何の気なしに見ることになった

 

時間がたってその箱の中身を

開けることに抵抗なくなったんだろうか

 

 

映画とドラマの違いは

外のシーンが多い。

正確には小林薫さん演じるマスターが

めしやの外の世界にいたということ

ドラマのなかでは記憶の限り

あまりなかった。

レギュラー陣も出てるなかで

レギュラーだったオダギリジョー

全く別の人物として登場しているのが

また面白い。ロン毛に着物を纏った

謎の雰囲気ある常連客だったが

近所の交番勤務の短髪の爽やかな

警察官へと変貌。コイツがまた

結構良い役なのだ。

さすが、カメレオン俳優。

この世界にも存在する

オダギリジョー、最高。

ありがとう。

それと最後は

これはネタばれになって

しまうかもしれないが

田中裕子さんが登場する。

 

小林薫×田中裕子

 

最近だと坂元裕二脚本の作品

【woman】で夫婦役で

共演していることで

若い世代は認知されてるだろう。

 

お二人は昔、向田邦子脚本の

ドラマで夫婦や恋仲など

多くの共演をされていた。

 

この二人が会話を交わすだけで

もはや物語が成立する

リアルというよりも

その人物の生活臭がする

とくに、田中さんからは

生活臭と質感を感じない瞬間はない

 

深夜食堂の映画の印象を

ポイントとしてあげてきたが

他にもたくさんの役者さんが

ゲストとして名を連ねている。

高岡早紀柄本時生多部未華子

谷村美月筒井康隆、田中裕子、

他にもビックネームから

バイプレイヤーまで

チョイ役として深夜食堂の世界に

存在していくからそこも注目して

いただきたい。

 

ドラマシリーズから変わらずに

OPで流れていた

鈴木常吉さんの

【思ひ出】これもいい。

OP、EDでこの曲が

あの【めしや】の世界で

大きなスクリーンと暗い会場で

流れていく、それだけで

十分なくらい良い。

映画館で見ておけば

よかったなと後悔するぐらいに。

 

 

 

ここ数年で飯テロドラマが増えたが

深夜食堂はわりとその始まりの頃の

作品だった気がする。

いろんな色の飯ドラマが生まれてきたが

食べ物ってどこにも逃げないんだろうね

思いとともに寄り添い

突き放すことなくそのままいる

現実にめしやもマスターも

癖の強い常連たちも

別世界では孤独のグルメしてる

無表情の情のアツイヤクザも

愉快なゲイバーのママも

恋愛体質のストリッパーも

お茶漬けシスターズも

他にもいっぱい……みんな

この世界にはいないけど

 

この世界の片隅で

色んな居場所や心の拠り所や

ささやかな何かを

求めては立ち止まっては

通りすぎてはまた戻ったり出ていったり

そういうことで成り立ってる。

その1つが、ごはん なのかもしれない。

 

 

久しぶりにあの世界には

戻ることができて良かった。

変わったことも変わらないことも

治らないことも色んな自分で

この数年駆け抜けてきたが

また、この世界に

寄り道して出ていって

よかったなと。

 

いつまでたっても

大切な作品で

いつまでたっても

めしやは消えることなく

私のなかにはあって

 

映画が終わってからも

そんなことを

きりなく考える。

 

 

 

劇中で

多部未華子がめしやの

二階に居候してたときに

買って木造のベランダ窓に

つけた風鈴があった。

シンプルで軽やかな音色だった。

その音色は夏の訪れを感じるのだ。

 

 

風に揺れて

隣の部屋から

聞こえてくるすこし似たどこか

簡素な安い風鈴の音色に

この場所にも

そろそろ夏がやってくるのかと

あくびをしながら呑気に思う。

あぁ、今日の晩御飯なに食べよう。

また呑気にそんなことを

私は考えた。

 

 

 

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